アーク溶接 第89話 アーク溶接品質を考える(5) 担当 高木柳平
2017年06月12日
=溶接強度保証項目と各種阻害要因=
溶接強度を保証する項目は種々挙げられるがその中で①脚長 ②のど厚 ③溶け込み深さ ④溶接の長さ ⑤ビード幅の5項目が代表的なものとして、許容すべき規格が示されています。例えば溶け込み深さの規定では「薄板側の板厚の20%以上とする」、脚長では薄板側の板厚の80%以上とするなどで、規格は守られなければなりません。本話ではこれらの強度保証項目に対して阻害する要因を、ビード外観の観察からどのように見ていくか、さらに溶接部断面形状(マクロ組織と言う)の観察からどのように判別するか、それらの概要を図089-01に「溶接強度保証項目と強度低下につながる各種要因」として記します。
概要の説明に入る前にチョッと一言。脚長、のど厚など溶接用語が多く出てきます。これらの用語は正しく理解をして下さい。溶接用語を調べ、把握することでアーク溶接品質への理解が一段と進むものと思われます。
さて、強度保証項目の中で規定が難しいひとつが「ビード幅」と考えます。自動車メーカの規定では「薄板側の板厚の1.5倍以上」などの規定がみられますが溶け込み深さを考慮するとビード幅の中心を溶接線に対しどこに置くかによって見方が違ってきます。
他のひとつは「のど厚」です。のど厚×溶接の長さ(mm2)によって荷重を受ける断面積を表す重要な強度保証因子となりますが、実際のど厚となると狙いずれを含め、継手のギャップなども考慮に入れなければなりません。これらの強度を阻害し、強度低下につながる要因が「ビード外観」にあったり、「ビード内部」に存在したりする。ビード外観不良因子をみると、ずれ・不揃い・蛇行・切れ・もぐりなどすべてビード幅に関連し、それが溶け込み深さに直結し溶接強度を低下させる。また、凹ビードはのど厚不足に、凸ビードはビード幅不足、外観不良につながりやすくなります。さらにビード先端部の溶融金属が先流れしやすい傾斜姿勢の溶接では溶け込みが浅くなりがちであり、ビード端部のビラビラは大粒移行であったり、溶滴が移行時に叩きつけられたことを示し安定した溶け込みが得られません。なお、スタートおよびエンド各部は夫々不安定になりがちで溶け込みも浅く特別に観察が必要です。また、穴明き、溶け落ちは外観上許されない母材欠損として分類しました。一方、溶接ビード両端部に生じやすい「アンダーカット」・「オーバラップ」欠陥についてはそれらの程度にもよりますが、ビード部位によって良・不良の判定が異なり、繰り返し引張荷重を受ける足廻り部品では厳しく判定される場合があります。
強度を阻害するビード内部不良としては、溶け込み状態が「融合不良」「溶け込み不良」「溶け込み不足」(詳しくは後述)と各々判定されれば強度を保証することはできません。ビード内部に空洞としてあらわれるブローホール欠陥と併せて強度保証上管理することが必要になります。
次話より強度を低下させ品質不良要因となる「ビード外観不良」について各論を展開していく予定です。
以上