アーク溶接 第79話 アーク溶接技術講習とその紹介(7) 担当 高木柳平
2017年03月06日
前話では現場説明において表078-01にみるようにワイヤ送給装置関係を主に説明し、トーチ関連については紙面の都合で不十分となった。そこで本話では溶接トーチへの観察のポイントとして主にチップ取替え基準とその対応について記します。
周知のように溶接トーチはアークに最も近いためアーク熱、発生スパッタ・ヒュームなどの悪影響を受けやすく、一方チップ孔をワイヤが送られローラなどによる摩耗、銅・鉄粉などの詰まり、ワイヤ表面キズによる孔内面の損傷など、溶接品質・能率に大きな影響を及ぼす。そこで適用中の溶接トーチ部品の清掃基準、取替え基準を明確にし、作業標準化して実施されているお客様は多い。チップ、ノズル、オリフィス、チップボディーなどはその対象である。ところがそれらの基準はどのように作られたのかを遡ると曖昧な点が多く、これらを明確に把握することを現場で強調している。
チップ先端へのスパッタ付着を例にとると、何らかの要因で最初に先端部に付着したとします。それが溶接ワイヤの送給力で幸運にも剥がれます。が、また付着します。これらの付着、離脱を繰り返しながらチップも温度上昇するなかで遂に決定的なスパッタ付着を招き取替えに至ることに相成ります。種々なケースが、観察を繰り返していると見えてきます。そこで現在採用している清掃、取替えの基準は適正かどうか時々チェックしながら対応する必要性を指摘したいのです。
チップは清掃、取替え頻度が最も大きい部品でありますが、早めの取替えは必ずしも好ましいとは言えません。品質維持の観点からチップ取替えを「溶接時間」or「溶接製品数」の何れかに決められているお客様が多いが、一方アーク状況を見ながら取替える処もある。筆者がチップ取替え基準で強調したいことは以下のことです。
① チップ取替えに対する考え方
チップは、とくにその先端穴は摩耗し拡がります。お客様の各溶接工程で平均的にどの程度にまで拡がるか把握してください。また、摩耗量は溶接電流、ワイヤ送給速度およびワイヤ送給の総量などに比例することは容易に予測でき、一般的にこれらの摩耗は避けられません。取替え、交換の第1要因となります。摩耗以外に、どのような不良症状が生じますか。摩耗とは別個に考えて下さい。チップ溶着(先端部溶着、穴内部溶着)、穴詰まり(ワイヤ起因、スパッタ混入)、スパッタ付着などが挙げられます。
これらのチップ不良の原因を追求し対応することが、チップ交換頻度の低減と同時に溶接品質改善につながります。
② チップ良否判別の方法例について
まず、チップ交換頻度の大きい溶接工程に着目することです。交換が多い対象のチップをAとし、交換の少ない対象のチップをBとし比較をすることで早く習熟できます。
*チップ外観の観察:スパッタ融着、アーク熱によるダメージなどの有無
*チップ先端穴、先端面の観察:少々濡れているか or 乾燥しているか
*チップ穴内部のチェック:弊社推奨HGピンによるチェックと送給ワイヤ表面キズ有無のチェック
不良症状で多いものは、ワイヤ、コンジット起因のものです。チップ外部からのバーンバック現象による溶着などは制御系で即、対応せざるを得ません。ワイヤも時々刻々変化し、コンジット系も変化するので、現場観察から要因を見つけ出し、日常的に対応することが重要です。慣れれば難しいものではありません。観察方法と観察手段は既に本稿で何度も指摘してきました。参考にしてください。
なお、チップ以外の部品の清掃、取替え基準もしっかり作業標準を作り守り、守らせるように。以前にも触れましたがチップはほぼ毎日交換するのにチップを取り付けているチップボディーは数年も交換しないということがたびたびあります。不思議です。必要なことはその気になっての「観察力」です。
最近、アークロボットの進展に伴いトーチケーブルの捩じれが防止できるようにケーブル内臓ロボットが普及してきています。ここで注意して頂きたいことは、トーチがロボット動作により如何に首を振ろうともそれに伴ってコンジット内部を送給されるワイヤまで都合よく首を振って狙い位置をワイヤ自ら適正化はできませんので予めご理解下さい。
図079-01に溶接トーチの重要性について俯瞰できるように、トーチ方式、部品の管理、送給性・給電性・ガス被包性における概要を示しておきました。参考にしてください。
次話では引き続き現場説明における「溶接機」編を予定します。
以上