アーク溶接 第103話 アークスタート性を考える(3)  担当 高木柳平

2017年11月06日

=スタート性と溶接電流・アーク電圧波形(短絡移行溶接編)=

 スタート波形をハイコーダ(写真102-01参照)でチャートにとる時、従来は困難であった起動タイミングなどに苦労することなく設定でき測定機器の進展にいつも驚かされる。
スタート性には通常、瞬時スタートとその他の瞬時でないものに分類されているが、いざ「瞬時スタート」を定義しようとするとそれらの区別は意外と難しい。
 本話では過去に測定したアーク溶接波形の中からアークスタート部に関し安定・不安定波形のほぼ典型的と思われるチャートを選び、かつ短絡移行編として解説します。なお、紙面の都合でチャートの編集が窮屈になっている点はご容赦ください。
最初に図103-01をご覧ください。フルデジタル機で短絡電流ピーク後のいわゆるスパッター制御(以下S制御と略す)と称する波形制御有・無におけるいずれも安定したスタート波形例を示します。図-1aでは60V弱の無負荷電圧からワイヤが母材に短絡し、短絡電流が流れ次にアークが発生しています。初回から順調な1粒毎の短絡移行が繰り返されています。図-1bでは80V強の無負荷電圧から短絡電流が立ち上がりアーク発生後約85msecと長めのアーク期間を過ぎて2回目の短絡移行に移り、かつS制御の作用で短絡ピーク電流後に瞬時電流ダウンの波形制御が機能しています。私見ですが低電流域のアーク起動時にはアークエネルギーを抑制するS制御のような機能は必要ないと感じます。ただでさえ瞬時スタートに高エネルギーを必要とするところに最初から抑制することは不都合です。スタート後遅らせてS制御を付加することは構いません。

図103-02にスタート不安定の波形を示します。 60V弱の無負荷電圧から最初の短絡電流が立ち上がり、瞬時アークの発生となりますが次の段階で電圧がほぼゼロとなりアークが消え、2回目の短絡が形成され瞬間30Vまで電圧が上昇しアークになりますが次の瞬間20Vまで電圧が下がり、電流が何らかの原因でゼロ化し、無負荷電圧が現われています。第3回目からの短絡は順調です。この波形から見ると、スタート時の溶滴にして1、2滴分がアーク不安定で、その要因は1st溶滴後のアーク形成が不安定であったという現象であり、むやみにワイヤを送給し押し込むと大粒溶滴となり、瞬時高電流により弾き飛ばされ、無負荷電圧出現に至ったと推定します。このような現象からも最近の新技術である「ワイヤ正逆送機能」はむやみなワイヤの押し込み(送給)を回避できるという点でスタート性改善に期待がもてます。通常溶接機では適正なスローダウン制御の設定が求められます。

図103-03には、トーチ2本同時アークの溶接工程で時折スタート時にアーク消失するというコンプレインに悩まされているお客様の例です。図-3aは同じ工程で磁気吹きの悪影響がない場合であり、図-3bは磁気吹きの影響を捕らえたアークスタート時の波形です。60V弱の無負荷電圧からの短絡電流の立ち上がり、続くアークの発生までは順調ですが、ここでは3回の短絡移行のアーク期間終了後に電流ゼロ、無負荷電圧出現となってアーク消失。ほぼ28msec後再アークを果たしていますがアーク不安定気味です。このように初回の、1粒目のスタート性は達成できてもその後の安定を保てない事例として磁気吹きの影響などがあることを参考にして頂ければ幸いです。

次回は引き続き「スタート時波形・パルスマグ溶接編」を解説します。

以上。

№ A103

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