品質管理技術 最終話(第12話) 『夢を売って歩く!』 担当 津守正己

2015年11月16日

 永らくご愛顧いただいたこの品質管理技術のコラムも、今回をもって最終回となった。連載中、様々なお問合せやご意見を頂き、その反響の大きさに驚いた。誌面の都合上、十分に伝えきれない部分があったかと思うがご容赦願いたい。今回は最終回に相応しく、これまでの総括的な内容で締めくくりたいと思う。

 

Ⅰ 育った時代と環境

  私は幼少の頃未熟児で、何とか小学校へ入学したが体育ほど嫌な科目はなかった。走っても跳んでも陸の上では勝てた事が無かった。しかし、紀ノ川が近かったせいか水の中ではまさに水を得た魚、特に潜らせれば負ける事はなかった。(津守の津は水、守は神 = 水の神との説もあります。) 社会人になってからも紀伊半島・若狭湾の磯を遊び場としていた。当時ウェットスーツは手に入れるのが困難で神戸まで行って仕立ててもらった時代。

  小学生の頃に話しを戻しますが、河川敷でモトクロスの競技を見るのが好きで、ヤマハ・ホンダ・・・ 上位はいつもトライアンフだった様に思う。そんな中、近所のヤンチャな兄ちゃんが50ccのスポーツタイプを入手した。免許もないのに見様見真似でジャンプの練習とかで遊びまくっていた。自分の足では勝てないがバイクでは何とかなった。その後バイクから自動車へと興味が広がり結局自動車メーカーへ就職してしまい・・・ 48年間自動車づくりに生きてしまっていた。

 実験の仕事(テストドライバー)を夢見ていたが配属されたのは生産技術だった。自動車屋の生産技術といっても技術は種々多様、大きくはユニット関係(エンジン・駆動関係)と車両関係(プレス・板金・塗装・組立)に分かれる。私は車両それも最もお客様に近い完成車両組立部門であった。同期で150人程入社したが自動車科目を専攻し、軽自動車の免許を持つのは生産技術へ配属された中で私一人だったと思う。

 

Ⅱ 車両品質は部品品質の集合で成立する

  自動車の組立工程(ライン)で組付けされる部品点数は約1000~1500点、それもその殆どが専門の部品メーカーから供給され、内製で製造されるのは外板(ドア・フード・ルーフ等)ぐらい。この様に部品メーカーから納入される部品で最終的に高品質な車両に仕上げるにはこの部品品質こそが命! 出来の悪い部品をいくら上手に組付けても車両品質は良くならない・・・ と悟った。

 部品は樹脂・ガラス・ゴム・メッキ等々それぞれ日本いや世界を代表する専門メーカーでつくられているが、私にはそんな幅広い技術はないが完成車両の事なら誰よりも詳しいと自負していた。

 より良い車両に仕上げる為に、この部品はこの様にすれば全体とのバランスが良くなりお客様に喜んで頂ける・・・ と、部品メーカーの技術者を説いて廻った。

 私に自覚は無かったが、廻りからは徐々に「夢を売るおっさん」と呼ばれていたらしい。いつも持ち歩くくたびれたアタッシュケースも一役買っていたようだ。

 

Ⅲ 内外装品質は感性で決まる

  ユニット系の切削部品は図面に公差が入っているが、車両の内外装部品はデザインされた3次曲面で造形され、いつもお客様の目にふれ、色合い、感触も含めた感性で評価される。図面には公差なく、色は色見本による等々定量評価が困難で、つくる人、評価する人の感性に委ねて何とか耐えて来たのが現実。その感性を養う方法は無いものか?? 目先の損得に拘っていてはだめ・・・ 現実を離れて夢を追う生き方が大切か・・・ と思う。

 私はいつも「あるべき姿」を持ちましょう・・・ といい続け、部品品質こうあるべき、それを製造する工程はこうあるべき・・・ といい続けた結果が「夢を売っている」様に見えたのかも・・・ 又、社内外を問わず夢を追って楽しく仕事する集団を周りは「津守学校」「津守軍団」とも呼び・・・ 優秀な人財も育った。

 時代はかわって業務の効率化を最優先にコンピュータ化が進み、仕事の中で感性を磨く機会は少なくなった。

 第6話で「ヘラ鮒釣り」の話しをしたがこれも又、集中力を養い感性を磨く手段とみれば釣りをやらない人の理解も得られると思う。

 このところ売る夢の在庫も乏しくなってきた! そろそろ夢を求めて旅立つ時期かも・・・

 昨年10月の第1話「みえる化」は改善の原点です! から約1年、最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。

 機会があれば又お会いしましょう。

№ Q012

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